2019年末からCovid19の影響で、世界的な人の流れが止まりました。特に影響が大きかったのが、観光業界です。船の世界では、客船の運航が止まってしまいました。まだまだ現役で活躍する予定であった客船も、再開の目途が立たない中、多くの運航会社はコストの係る長期停船を避けて、スクラップすることを決断しました。その影響で、地中海やカリブ海で活躍していた多くの豪華客船が、トルコの解撤ヤードに来ることになりました。そんな事実を新聞記事で見たこともあり、多くの船を運航する企業で働く人間として、是非訪問したいと思いました。また、丁度、同じ時期、商船三井の新規事業として、日本の中古農業機械を越境ECサイトで、アフリカに販売する事業に就いて、SNSで紹介したところ、インドのシップリサイクル業者から中古舶用機器の販売はできないのかと言う問い合わせが入りました。それは十分考えられる話だなと思ったことから、その可能性を探ることも目的として、20212月にシップリサイクルヤードがあるトルコのアリアガを初めて訪問しました。私は以前インドでも勤務しており、解撤には興味があったのですが、その時はインドで開始した事業が、極めて大変で、全く時間が取れず、訪問は叶いませんでしたので、初めてのシップリサイクル施設の訪問となりました。



ここでトルコのシップリサイクル産業紹介したいといますトルコには、各地に船舶の解体ヤードがありましたが、1974年にイズミル近郊のアリアガに集約されました。約1.5kmの海岸線に現在、25のリサイクルヤードが運営されています。海岸からの奥行きは200から400mで、海岸部を除きコンクリート舗装がされています。

多くの船が、バングラデッシュ、インドで解体されています。トルコは、以前は世界第5位の規模だったのですが、ここ数年、中国・パキスタンの解撤量が大幅に減り、逆に、トルコは増えて、現在世界3位の規模となっている様で、全体の10-15%程度の量を解撤しています。2021年は112隻の船が解撤され、約82万㌧の鉄がリサイクルされたとのことです。

船舶の解撤は、荒海も乗り越える位頑丈に作られている船を解体する事であり、また、その巨大な船体からも、解体は容易ではないことは想像に難くないと思います。船の解体は、昔は日本でも盛んにおこなわれていました。しかしながら、現在、先進国ではほとんど行われておらず、大部分がインド、バングラデッシュで行われています。それらの解体ヤードの実情は、想像を絶するもので、多くの人々が、中には、ヘルメットすらしておらず、裸足・素手、簡易な道具で解体を行っていきます。また、大人だけでなく、子供も働いている様な現場です。解体される船は、満潮の時間に、全速力で、浜辺に突っ込んできて、潮が引いてから解体にかかります。切断されたブロックは、チェーンを掛け、トラックや人力で引っ張って、海に落とします。予期せぬ部分が落ちたり、鉄の塊が吹き飛んだりして、命や手足などを失う労働者が多く出ています。また、船には、有害な物質もあり、それらが海に流れ出たり、何も知らない労働者の健康を奪っています。このような酷い状況を改善するため、2009年にシップリサイクル条約が採択され、解体ヤードでの安全の確保と有害物質の正しい処理の実施を目指しています。また、欧州連合は、2019年以降、欧州連合の商船は、欧州連合が承認する解体ヤードでの安全で環境に配慮したリサイクルが義務付けられました。現在、トルコの多くの解体ヤードが適合認証を受けています。トルコも昔は酷い環境で行われていましたが、今は、管理された方法で運営されています。今解体が増えている客船は、一般の商船よりも様々な有害な廃棄物があると言われています。それらが海に流出すると環境破壊につながります。トルコの解体ヤードは環境保全の為、廃油を保管するタンクに繋がるパイプライン、陸揚げされたブロックを処理する場所のコンクリート舗装、万が一の油流出に対応するためのオイルフェンスの配置などが行われ、廃棄物はルールに従い、分別・管理されています。また、船内にあるアスベストなど有害物質の除去は協会の訓練されたチームが行い、処分もすべて適正に処理されます。船内に残った油の販売は禁止されており、産業廃棄物として完全に廃棄されます。



具体的な解撤作業は、解撤される船は海岸に自身で近づくか、タグボートで引っ張られ、最後は、陸側にあるウィンチにより船首部分が引き上げられます。その後、国に提出された解体計画に沿って、船の前の方から徐々に切断をしていきます。タンカーなど船の上部に多くのパイプなどがある船はそれらを取り除いてから、船体の解体に入ります。解体は、吊り下げるクレーンの能力などに併せて5トン~30トンのブロックに、バーナーで切断され、そのクレーンで陸に降ろされます。陸揚げされたブロックは、更にバーナーで切断され、最終的には1平方メートル程度のサイズに切り分けられ、トラックで近隣にある製鉄所に運ばれ、鉄として再生されます。また、電線などの非鉄金属は手作業にて分別されます。船に装備されている機械はそのまま中古品として販売され、陸の工場や新たに船などに搭載されます。本当に細かい部品、食堂で使っていた食器や家具なども販売されます。救命艇は、改造されてレジャーボートや漁船になるものもある様です。重量の90%がリサイクルされるとのことでした、


客船が増えていると言いましたが、客船は構造が複雑で、普通の商船が6か月程度で解体できますが、客船はほぼ1年かかることになります。また、木材、家具、キッチン用品など商船より多い品々や部品がリサイクルされます。



殆どの物がリサイクルされると書きましたが、リサイクルやリユースはできないけど、装飾品などとして使えるものが、リサイクルヤードのオフィスなどに飾られてました。売ることもできないし、もったいないから飾っているのだと思います。しかし、その船の関わってきた人々は多く、もしかししたら、そのようなものも廃棄物ではなく、思い出の品になるかも知れません。また、日本では、鉄道や航空マニアが引退した電車や飛行機でる備品などを買っていることからも、船ファンには垂涎の品々かも知れないと思い、これらの販売を行う事としました。昔に解撤された船からの商品を掲載しておりますが、今後はこれから解撤される船から集めた品々を、その船の歴史を紹介しながら、販売できないかと考えています。まだ、始まったばかりですが、当社のサイトが、インドやバングラデッシュからの出品も引き受けられるような「世界最大の中古船用品の販売プラットフォーム」にしたいと思っています。

商船三井は、800隻以上を世界で運航する世界最大手の海運会社の1社ですが、それらの船は船主さんから傭船しているものや、自社で保有している船もあります。しかし、最終的には中古船として売り渡すことが多く、船の解撤には余り関与していないのが現状でした。しかしながら、船を運航する会社としては、船のライフサイクルの全てに関与する必要性があると強く感じています。



最後に、現在の海運業界の状況をお伝えして、この紹介を終えたいと思います。

人口の増加して、生活が豊かになり、世界の貿易量が増大しています。そのため、船の数は増え、更に大型化が進んでいます。約30年前には1年で2000万㌧の船が作られましたが、約20年前には、倍の4000万㌧まで増えました。更に、2000年以降、更に増加しており、2010年には1億㌧を越え、今は、多少減っているものの、2010年も8千万㌧の船が建造されました。

船の寿命を考えると、今後、解体される船は、倍増して行く事になります。先ほども見て頂いた様に、スクラップの現場は、大変厳しい環境で行われています。私たちの生活を支える船は、バングラデッシュやインドの様な世界で最も貧しい国の人々が、大変危険な目に会いながら解体し、リサイクルされているのが現状です。このような仕事があって、皆さんが豊かに暮らせていること、忘れないで欲しいです。

また、日本の船会社は20年過ぎた位で、中古船として、売却する場合が多く、これまでは解体に余りかかわることはなかったのですが、国連で採択された「持続可能な開発目標」(SDGs)の観点からも、船の解体に関心を持ち、関与を深めることは極めて重要と考えています。私たち海運会社は、船がその役目を終える時のことも考えて、船を設計し、建造し、なるべく長く船を利用して行く必要があります。地球環境や解撤現場の安全衛生に配慮した船の解体は、持続可能な社会を作る上でとても重要です。また、シップリサイクルは資源の有効活用の点でも、極めて重要であり、進んで取り組んで行くべき課題だと考えています。

 

もしこのシップリサイクルや海運に興味を持って頂いたなら、是非、商船三井のサービスサイトを覗いてみて頂ければ嬉しいです。この度は、このサイトを訪れて頂き、この紹介文を読んで頂き、ありがとうございました。

 


商船三井トルコ社 社長 片田 聡